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東京地方裁判所 昭和29年(ワ)5027号 判決 1957年4月06日

原告 高城健蔵

被告 本間正次 外一名

主文

被告本間正次は別紙目録(甲)記載の建物につきなした昭和二十九年四月二十八日東京法務局北出張所受附第九二二七号所有権保存登記の抹消登記手続をせよ。

被告磯部福太郎は別紙目録(甲)記載の建物につきなした昭和二十九年四月三十日東京法務局北出張所受附第九三一四号同日附売買による所有権取得登記の抹消登記手続をせよ。

訴訟費用は被告等の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は主文同旨の判決を求めその請求の原因として、原告は別紙目録(乙)記載の建物を所有し、昭和二十九年五月六日東京法務局北出張所受附第九五八一号を以て自己名義に所有権保存登記を経由した。すなわち右建物はもと東京都北区(当時王子区)十条仲原二丁目十三番地所在木造セメント瓦葺バラツク平家建事務所一棟建坪約四坪であつて訴外同都王子区十条仲原二、四丁目町会の所有であつたが、昭和二十二年二月頃右町会の費用で従来の構造及び建坪数のまま訴外浅賀竹之助所有同所十四番の二宅地(登記簿上畑)六十五坪の地上に移築された。しかして右町会が東京都北区に対し同年八月中右建物を無償で期限の定めなく貸与した際、同区は右町会に対し、右建物を同区役所第四出張所として使用する。その必要上右建物に増築工事をなすが、不要となつてこれを返還するときは右増築部分を含め無償でこれを右町会に返還する旨特約し、その後二回に亘り右建物に増築を施した結果、右建物は別紙目録(乙)記載のとおりのものとなつた。しかして右町会は同年七月若しくは八月頃連合国最高司令官の命令に遵い解散することとなり、同年九月二十九日臨時総会においてその解散を決議したが、右総会の決議を以て本件建物は、右町会が復活し又はこれに類似する団体が設立されたときは右団体に対しこれを贈与するとの条件で、町会会員の殆ど全員を組合員とする産業組合法に準拠した社団法人たる有限責任王子区十条仲原二、四丁目購買利用組合に贈与された。しかして右組合は昭和二十四年六月頃から事実上その事業を停止し、昭和二十七年六月八日組合員全員に対する適法な通知を以て招集された臨時総会の決議により解散した。一方昭和二十四年十二月十八日右組合員の殆ど全員がその会員となつて東京都北区十条仲原二、四丁目親睦会を設立したが、右組合の右総会において満場一致を以て、右建物を右親睦会に贈与する旨の決議がなされ、右決議に基いて、右総会において清算人に選任された浜口直次郎、星運次郎、湯田七四の三名は昭和二十七年七月二日東京都北区長から前記増築の結果別紙目録(乙)記載の構造及び建坪数となつた本件建物の引渡を受けた上同日これを右親睦会の代表者たる原告に引渡した。よつて本件建物は右親睦会の財産であつてその会員たる原告その他七百三十四名の共有に属したところ、昭和二十九年五月六日右親睦会と原告との間に原告に対し右建物を信託讓渡し、原告にその管理をさせる旨の契約が締結され、よつて原告はその所有権を取得したものである。

しかるに被告本間は右建物につき自己のために別紙目録(甲)記載のとおりの建物の表示を以て主文第一項掲記の所有権保存登記をなし、次いで被告磯部は主文第二項掲記の所有権取得登記を経由した。しかしながら実在の建物は当初から唯一箇あるに過ぎないから、被告等の経由した右各登記は別紙目録(乙)記載の建物につきなされたものであつて、被告本間は右建物の所有権を有したことがないから、右建物につき自己のために経由した右所有権保存登記は無効である。被告磯部は昭和二十九年四月三十日被告本間から右建物を買受けたものであるが、右建物の所有者でない被告本間との契約により右建物の所有権を取得できるいわれはないから、被告磯部のために経由した前掲所有権取得登記は無効である。

よつて原告は被告等に対し所有権に基き前掲各登記の抹消登記手続を求めるため本訴に及んだと述べ、

被告等主張事実中右組合の定款中に当時被告主張の規定があつたことは認めるがその余の事実は否認する。

仮に被告等主張のとおり本件建物を村山に対し譲渡する旨の決議があつたとしても、被告等が右組合の総会と称するものは、被告主張の日数名が村山の自宅において勝手に集会したものに過ぎず、なんら総会招集の手続がとられていないのであるから、右組合の総会の決議としての効力を生じない、仮に右決議が清算人村山の公告によつて招集された総会の決議であるとしても、総会招集手続は右組合定款第二十条に組合全員に書面を以て通知しなければならない旨定められているところ、昭和二十四年からすでに事実上事業を停止していた右組合において昭和二十六年末頃組合員に大異動を生ずるわけがなく、従つて総会招集は前記規定にしたがいなされるべきものであつて、総会招集を組合員全員に告知するためやむなく他の手続を用いなければならない特段の事由は認められないのであるから、公告による総会の招集は右定款に定める総会招集手続に違反しているので無効であるから、総会自体成立しないものといわなければならない。仮に全組合員に対し総会招集を通知することが不可能であつたとしても、少くとも清算人中村嘉入、同藤井正元、同丸山英三、同佐藤正三郎、監事山口寿雄、同長谷川篤市及び村山の住所附近に居住する原告その他の組合員に通知することは必要である。その内特に中村は右総会議事録によれば組合に対し約七万円の預り金返還の債務を負うものとしてその責任追及が右総会議題とされているのであるから同人に対し総会招集を通知することは不可欠である。しかして仮に右総会の目的が組合の解散を前提としてその財産処分をなすことにあるとすれば、組合の残余財産全部を処分することは定款第二十一条第二項(「総会ノ決議ハ出席シタル組合員の過半数ヲ之ヲ為ス、但シ定款ノ変更理由又ハ監事ノ選任、若ハ解任、組合員ノ除名及聯合会ノ加入又ハ脱退ノ決議ハ組合員ノ半数以上出席シ其ノ四分ノ三以上ノ同意アルコトヲ要ス」)に列挙された事項に準ずる重要性を有するので同項の規定を準用し組合員全員の半数以上の出席を以て決議の要件とするものといわなければならない。してみると右決議はいずれにしても有効ということはできない。

仮に以上の主張がいずれも理由かないとしても、凡そ未登記のまゝ売買された不動産は売主が自己名義で所有権保存登記をなした上、買主のため所有権取得登記を経由したのでなければ、買主が自己の所有権取得を第三者に対抗できないものである。然るに本件建物は未登記のまま売買されたにかかわらず売主たる村山が自己名義に所有権保存登記をなした上、被告本間のために所有権取得登記を経由したものではないから、被告本間はその所有権取得を原告に対抗できず、従つて被告磯部は本件建物の所有権を原告に対抗することができないと述べ、

立証として甲第一乃至第三号証、同第四号証の一、二、同第五乃至第九号証(同第八号証は写)、同第十号証の一、二、同第十一乃至第十三号証を提出し、証人浅賀まさ(第一、二回)、同小倉洋、同三浦不非、同山崎彌五郎、同高浜晧、同山崎彌吉、星運次郎、同藤井正元、同境野うら、同大谷恒、同建部定子、同長沢シモの各証言を援用し、乙第一、二号証、同第二十四号証、同第二十五号証の二の成立を認め、同第二十三号証、及び同第二十五証の一はいずれも郵便官署作成部分の成立を認めるかその余の部分の成立は知らない。同第三号証は浅賀竹之助の作成した同人の押印のある承諾書並びに公務所がゴム印を用いて作成した部分及び右部分に記入した部分はいずれも成立を認めるがその余の部分の成立は知らない。その余の乙号各証の成立は知らないと述べた。

被告等訴訟代理人は、原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とするとの判決を求め答弁として、原告主張の建物(別紙目録(甲)記載のとおりの構造及び建坪数を有するものであるか、それと別個のものでないことは認める。)につき原告主張の原告名義の保存登記がなされたこと、原告主張の町会がもと東京都北区(当時王子区)十条仲原二丁目十三番地の地上にバラツク(建坪約三坪である。)所有していたこと、原告主張の増築前の建物が原告主張の場所に建築されたこと(移築されたのではない。)、右町会が連合国最高司令官の命令により解散したこと(解散の時期は昭和二十二年五月三日である。)、右町会の解散に際して右建物を原告主張の組合の所有とする旨の決議がなされたこと、原告主張の頃東京都北区が建物を、同区役所第四出張所として使用するため改築するが返還の際は改築部分を含め無償で返還するとの条件で貸与を受けたこと(但し貸主は右町会でなく右組合である。)、同区は右建物を改築し(改築の時期は昭和二十二年六月六日である。)その結果右建物が現在のとおり前掲の構造及び建坪数となつたこと、右組合がその後解散したこと、原告主張の頃原告主張の親睦会が設立されたこと本件家屋につき被告本間が自己のため主文第一項掲記の所有権保存登記をなしたうえ、原告主張の日これを被告磯部に売渡し、同日被告磯部のために主文第二項掲記の所有権取得登記を経由したことはいずれも認めるが、その余の原告主張事実はすべてこれを争う。すなわち右建物はもと右組合が昭和二十二年一月中同所十四番地に建築して所有する前記構造の約四坪の建物であつて、その建築は右組合の費用を以てしたけれどもその建築材料の一部に同所十三番地にあつた右町会所有の前掲バラツクを取毀した廃材を用いた経緯があつたため、右町会はその解散に際し右組合の所有とする旨の決議をなしたものである。右町会解散後東京都北区は右組合から右建物を同区役所第四出張所として使用するため賃借したが、その際同区は右建物の改造造作はできる限り区で負担し、右建物が区において不要となつたときは改造部分を含め無償で右組合に返還する旨約した。しかして昭和二十七年四月頃組合は北区から前掲改築により別紙目録(甲)記載のとおりの構造及び建坪数となつた本件建物の返還を受けた。

しかるに昭和二十五年十二月一日消費生活協同組合法が施行され右組合は同法施行後一年の期間内に同法に準拠した消費生活協同組合に組織変更しなかつたため昭和二十六年十二月一日同法により解散し、当時の組合長村山左久良等各理事が右組合定款第五十四条本文「本組合解散シタルトキハ理事其ノ清算人トナル」により清算人に就任した。当時右組合は債務超過でその大部分が訴外村山左久良に対する債務であつたところ、清算につきできる降り組合員の納得を得るため、清算人村山左久良は同月二十二日同人の自宅において組合の財産処分を会議の目的として臨時総会を開く旨公告したが、同日は出席者が組合員の半数に満たないため流会となり定款第二十一条第一項「総会ハ組合員ノ半数以上出席スルニ非ザレバ開会スルコトヲ得ズ、若シ半数ニ充タザルトキハ十日以内ニ更ニ招集シ出席シタル組合員ヲ以テ開会ス」により同月二十五日に村山方において開かれた総会において、組合の所有に属する右建物は、組合の全債務を村山が引受けるとの条件で村山に譲渡する旨の決議がなされ、村山は右総会の席上これを承諾した。右総会の招集はいずれも組合事務所の建物に掲示された公告を以てなされたが、これは組合定款第二十条「総会ノ招集ハ会議日ヨリ少クトモ五日前ニ書面ヲ以テ組合員ニ通知スルコトヲ要ス前項ノ通知書ニハ、其ノ会議ノ目的タル事項、日時及場所を記載シ招集者ハ之ニ記名スルコトヲ要ス」に違反するけれども、当時組合員に大異動を生じ、それが組合の原簿上明らかでなかつたから総会招集の方法としては公告によるのが唯一の妥当の方法である。

以上の次第で右建物は同日右組合から村山左久良に対し譲渡されてその所有に属したところ、被告本間は昭和二十九年四月一日村山から代金十万円でこれを買受け、原告主張の日被告磯部に売渡したものである。右建物は当時未登記であつたから所有者たる被告本間のために前掲所有権保存登記を経由し、次いで被告磯部のために前掲所有権取得登記を経由したものである。右各登記はいずれも登記当時の実体上の権利関係に一致しているから有効であつて何人からも抹消登記手続を請求されるいわれはない。

もし右建物が右組合から村山に対し前記決議によつて有効に譲渡されないものとするならば、被告本間は昭和二十九年四月一日右組合の代表者たる清算人村山左久良との契約により右建物を直接右組合から買受けたものであるから被告本間が右建物の所有権を取得したことに相異はない。

仮に原告主張の臨時総会において前掲親睦会に対し本件建物を贈与する旨の決議がなされたとしても、右組合の総会の招集は前記のとおり組合員に書面を以て通知し又はこれに代る手続を経なければならないのに拘らず、右総会はなんらそのような手続を経て開かれたものではないから有効に成立したものではない。しかも右組合の殆ど唯一の財産たる本件建物を処分するに当り、村山等清算人の知つた債権者に対しなんらの通知をしていないが、右組合の多額の債務を弁済することなく右建物を右親睦会に贈与したことは組合の債権者の利益を害するものである。従つていずれにしても右贈与行為は無効であると抗争し、

右組合の定款中に原告主張の規定の存したことは認めると述べ、

立証として乙第一乃至第九号証、同第十号証の一、二、同第十一乃至第二十四号証、同第二十五号証の一、二を提出し、証人小倉洋、同海老沢保、同柳沢忠雄、同高浜晧、同木内将克、同伊藤幸雄、同深野善三、同村山左久良の各証言を援用し、甲第八号証の原本の存在及び同第一乃至第三号証、同第五号証、同第七、八号証、同第十号証の二の成立を認めその余の甲号各証の成立は知らないと述べた。

理由

被告本間が昭和二十九年四月二十八日東京法務局北出張所受附第二二七号を以て所有権保存登記を経由した別紙目録(甲)表示の建物と原告が同年五月六日同出張所受附第九五八一号を以て所有権保存登記を経由した別紙目録(乙)表示建物とが同一であつて別個独立のものでなく、右建物はもと産業組合法に準拠して設立された社団法人たる有限責任王子区十条仲原二、四丁目購買利用組合の所有であつて、右建物につき被告本間のため前掲所有権保存登記及び被告磯部のため同年四月三十日同出張所受附第九三一四号同日附売買による所有権取得登記が順次に経由されたことは当事者間に争がない。

しかるに被告等は右組合が昭和二十六年十二月二十五日訴外村山左久良方における臨時総会の決議により右建物を村山に譲渡したと主張するから考えてみるに、乙第四号証、第十三号証によると、被告主張の日八名の出席並びに七名の委任状の提出により臨時総会が成立し被告主張の如き決議がなされた旨の記載があり、証人村山佐久良、同伊藤幸雄は被告の主張に副う供述をするけれども、右組合定款二十条「総会ノ招集ハ会議日ヨリ少クトモ五日前ニ書面ヲ以テ組合員ニ通知スルコトヲ要ス」との規定の存することは当事者間に争いがないところ、被告主張の臨時総会の招集は右組合事務所の建物に掲示された公告を以て為され、右定款の規定に違反することは被告の自認するところである。被告は当時組合員に大異動を生じ、それが組合の名簿上明かでなかつたから総会招集の方法としては公告によるのが唯一の妥当な方法であると主張するけれども、当時組合員が不明であつた旨の証人村山佐久良の証言はたやすく措信し難く、その他これを認むべき証拠がないから被告の右主張は肯認し難い。右組合は前示のとおり産業組合法に準拠して設立された社団法人であるが、およそ社団の総会は組合員全員による会議であることをその本質とするので、組合員全員が総会に出席する機会を与えられること、従つて総会を開くに当つては組合員全員に対しその旨を周知させるに足る処置がとられることが最低の要件であると解すべきところ、被告主張の如き特段の事由が認められない以上総会招集の方法として組合事務所の建物に掲示された公告は右の要件を充足するものとは認め難いのである。その上、証人境野うらの証言により真正に成立したと認められる甲第九号証、同証人、証人長沢しも、同深野善三の証言によると、右乙号証記載の如き審議が為された事実はないことが推認され、右認定に反する右乙号証の記載及び前記証人の証言は措信し難い。要するに、被告等が総会の決議と称するものは招集手続が違法であるから、たとえ数名が集会したとしても総会自体が成立したものといえないため、右集会において被告主張の決議が為されたとしても右決議は無効であるのみならず、決議そのものの存在も認められないものである。従つて村山は右建物の所有権を取得したものでないから、仮に被告本間が村山との間において右建物の売買契約をなしたとしても、被告本間がこれにより右建物の所有権を取得する理由がない。

被告等は予備的に被告本間が昭和二十九年四月一日右組合の代表者たる村山との契約により右建物を右組合から直接買受けたと主張し、証人村山左久良の証言により真正に成立したものと認められる乙第十一号証、同第五、六号証はそれぞれ右組合組合長村山左久良の名義で作成された被告本間との間の右建物売買契約書及び被告本間に対する同売渡代金領収書であつて右主張に副う記載内容を有するけれども右各書証に証人村山左久良の証言並びに弁論の全趣旨を綜合すれば、被告本間は村山左久良と右建物の売買契約を結んだものであつて右組合を代表する村山と売買契約を結んだものでないことが認められる。よつて当時村山が右組合を代表する権限を有したかどうかを問うまでもなく、右書証を採つて被告主張の事実を認定する資料とすることができない。その他右事実を認めるに足る証拠はない。

その他被告本間が右建物の所有権を取得した事実の主張立証がないから、被告本間は右建物の所有権を取得したものではなく、従つて自己のために経由した前掲所有権保存登記は無効である。

被告磯部は被告本間から右建物を買受けたのであつてみれば(右事実は当事者間に争がない)右建物の所有者でない被告本間との契約により右建物の所有権を取得できるいわれはないから被告磯部のために経由した前掲所有権取得登記は無効である。

一方昭和二十四年十二月頃東京都北区十条仲原二、四丁目親睦会が設立されたことは当事者間に争がないところ、弁論の全趣旨によれば、産業組合たる前掲組合か、消費生活協同組合法附則第百四条により同法の施行期日である昭和二十三年十月一日から二箇年の期間内に、消費生活協同組合に組織変更しなかつたことが認められる。従つて右組合は同法附則第百三条によつて、同法施行の日から二箇年を経過した昭和二十五年九月三十日の終了とともに当然解散したものである。しかして証人藤井正元、同山崎弥五郎、同星運次郎の各証言、その原本の存在並びにその成立に争のない甲第八号証、証人藤井正元の証言により真正に成立したものと認められる甲第十三号証を綜合すれば昭和二十七年五月初旬頃右組合員が産業組合法第二十三条及び右組合定款第十九条により総組合員の五分の一以上の同意を得て、清算人村山左久良に対し組合員財産の処分につき決議をなすため総会の招集を請求したところ、その後契約一箇月を過ぎても村山がこれに応じないため、産業組合法第三十四条の二第二項により監事山口寿雄が各組合員に対する書面による通知を以て同年六月八日開会の臨時総会を招集したところ、当時の総組合員約三百名の内、三十八名の出席並びに百八十八名の委任状の提出があつたので定款第二十一条本文により同日の総会は有効に成立し、右総会において出席組合員の満場一致により右建物を右親睦会に贈与する旨の決議及び出席組合員の四分の三以上により組合員浜口直次郎、同星運次郎及び同湯田七四を清算人に選任する旨の決議がなされたことが認められる。証人村山左久良の証言中右認定に反する部分は前掲各証拠に対比して措信しない。しかして証人藤井正元、同星運次郎、同大谷恒の各証言及び右各証言により真正に成立したものと認められる甲第四号証の一、二によれば右清算人等は同年七月二日右親睦会の代表者たる原告に対し右建物を引渡したことが認められる。

被告等は右贈与の無効を主張するから考えてみると、被告等は原告主張の臨時総会が招集手続の不適法により有効に成立しなかつたと主張するけれども、被告等の右主張の当らないことは前認定により明かである。尤も右清算人等がその就職後産業組合法第七十一条及び同法第七十五条により準用される民法第七十九条に定める手続を経たことは証拠上認めることができないけれども、清算人が民法第七十九条所定の債権申出の公告及び催告を為さずして残余財産の引渡を為した場合は、一般債権者も清算より除斥されることなく弁済を受けない債権者は、清算人の行為が民法第四百二十四条所定の詐害行為に該当するときは債権者取消権の行使により財産の返還を求め、又不法行為を構成するときは清算人に対し損害の賠償を請求し得ること勿論であるが、右清算人の行為を直ちに無効と解すべきではない。してみると右建物の贈与行為が無効であるという被告等の主張も採用し難い。

以上の次第で右建物は右親睦会の財産としてその会員等の共有に属したところ前掲甲第四号証の一、二成立に争のない甲第二号証、同第五号証、証人藤井正元の証言並びに弁論の全趣旨を綜合すれば昭和二十九年五月初旬頃原告が右親睦会から右建物の管理の目的を以てその所有権の信託譲渡を受けてその所有権を取得したことが認められる。

よつて右物所有権に基き被告等に対しそれぞれ実体上の権利関係に吻合しない前掲各登記の抹消登記手続を求める原告の本訴請求は正当としてこれを認容すべきである。

よつて訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条、同法第九十三条第一項本文を適用し主文のとおり判決する。

(裁判官 福島逸雄)

目録

(甲) 東京都北区十条仲原二丁目十四番地

(所在家屋 番号同町九五〇番四)

一、木造瓦葺平家事務所居宅一棟建坪十八坪七合六勺

(乙) 同所同番地所在

(家屋番号 同町九五〇番五)

一、木造瓦葺平家建事務所一棟建坪十五坪

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